フットボールカルチャー > プレーヤー特集 > 技術の日本、フィジカルの英国 -どちらの国も模索は続く
優れた才能を持つ子どもを発掘し、いい指導をして、プロやインターナショナルの舞台で活躍できる選手を数多く輩出したい・・・。それは日本とイングランドのフットボール関係者に共通する願いだ。現在の育成環境を見ると、どちらの国にも独自性がある。
まずは日本。最近の子どもたちは3〜5歳でフットボールを始める。中村俊輔(セルティック)も稲本潤一(ガラタサライ)も、通っていた幼稚園のクラブで小学校卒業までプレー。基本技術を磨いた。元Jリーガーの西野努氏がイングランドから持ち込んだ「Socatots(ソカトッツ=乳児から幼児にサッカーの基礎を教えるスクール)」のように、赤ん坊のころからボールに慣れ親しませ、情操教育に役立てるというスクールも出現してきた。
小・中学生になると、子どもたちは3つのプレー環境から1つを選択する。選択肢は、学校の少年団、中村らがいたような地域のクラブチーム、Jリーグのクラブの下部組織である。小学生のうちは学校を中心に組織される少年団に所属する者の比率が高いが、中学生になると学校の部活動ではなくクラブチームに行く子がぐっと多くなる。
高校生になるとプロになれるか否かがほぼ明確になり、プロ予備軍の選手たちはJの下部組織か高校のフットボール(サッカー)強豪校でプレーするようになる。2006年ドイツ大会の日本代表23人のうち、高校出身者が16人、J下部組織出身者が5人、大学出身者が2人と、依然として高校のフットボールで活躍した選手の比率が高い。
このように日本では、プロになるためにさまざまな道が存在する。また2006年からは、日本サッカー協会がJヴィレッジ(福島)に作った「JFAアカデミー」という、既存の育成システムとは全く違う新たな試みも始まった。これは近隣の学校とタイアップして中高一貫教育を行いながら、エリート選手を作ろうというもの。モデルとなっているのはフランス、クレール・フォンテーヌにある「国立技術センター」の選手養成所だ。
数少ない精鋭たちに特別なカリキュラムを施しトッププロに育て上げるという、まさに‘英才教育’。フランスではジネディーヌ・ジダンという成功モデルが出た。が、日本で同じような比類なきタレントが出現するのか。「子どものうちからエリートと呼ばれる人間にハングリー精神が身につくだろうか」と西野氏も疑問を投げかけた。今後の動向が注目されるところだ。
一方、イングランドの場合だが、幼い子どもは草の根のクラブでプレーするのが一般的という。イングランドサッカー協会(FA)のコーチングラインセンス保持者で、今は日本で「イングリッシュフットボールアカデミー」を開き、子どもたちを指導しているアンドリュー・ダーディー氏はこう話す。
「イングランドでプロ選手になるには、プロクラブの下部組織でキャリアを積み重ねる必要があります。プロクラブは通常、Uー7(7歳以下)から指導を開始します。それより小さい子どもは草の根のクラブにいて、そこにプロクラブがしばしば巡回指導に出かけます。元プロ選手などに直々にフットボールを教われるのは非常に刺激的な経験。このような活動の中でプロクラブは才能ある選手を発掘し、自前の‘アカデミー’で育て、16歳くらいになるとプロ契約を結びます。今のイングランド代表の大半がアカデミー出身なんですよ」
イングランドのアカデミーは、日本のJの下部組織や学校よりも‘プロになるための教育’に力を入れている。イングランドの名門中の名門であるリバプールのアカデミーなどでは、13〜15歳になった段階でメディア対応の訓練を始め、15〜18歳ではプロになれなかった場合の職業教育なども行っているという。成績が悪い者はフットボールをさせてもらえないなど、厳格なほど学業との両立も重んじているという。
そんな両国だが、それぞれ選手育成に悩みを抱えている。日本の場合は‘指導の画一化’と‘オーバーコーチング’という問題が一番大きいだろう。
Jリーグ発足から数年後、日本サッカー協会は基本技術の重要性などが書かれている「強化指導指針」というマニュアルを発行し、多くの指導者がこれに頼るようになった。結果として指導現場では同じような練習が増え、飛びぬけて個性のあるプレーヤーが出てこなくなった。指導者が熱を入れすぎて勝利至上主義になったり、自分が学んだことをすべて選手に伝えようとして知識を詰め込み、想像力を奪っている面も否定できない。
勝利体験から学ぶことは確かに多いが、子どものうちはフットボールを楽しんだり、自由な発想や自主性を育てたりすることの方が、大事なのではないだろうか。西野氏も、子どもたちにはもっと自分で考える力やたくましさが必要ではないかと指摘する。
「僕らの時代はちゃんとしたコーチもいなくて、自分たちで考えることが多かった。環境も整備されておらず、土のグランドでドロドロになりながらプレーしたものです。今は天然芝とか人工芝とかいい環境が多くて、そこでないと戦えない選手も多い。現ブルガリア代表監督のストイチコフが柏レイソルでプレーしていた時、『優れた選手はどんな環境でもやれる』と話していたけど、まったくその通りだと思います」
イングランドでもコーチングに関しては‘理想と現実のギャップ’があるようだ。ダーディー氏によるとイングランドで奨励されているコーチングのモットーは次の通りだ。 If you tell me I will forget it. (言われただけでは、忘れてしまう) If you show me I will remember. (やって見せてくれれば、記憶に残る) If you involve me I will understand.(やらせてくれれば、理解ができる)
「日本ではコーチ主導の指令型コーチング方法がまだまだ多い。私のクラブのメンバーの9割は、最初、コーチに意見を聞かれるのが初めてだと言っていました。18時間トレーニングを行ってようやく自分で考え、発言するという第一段階に至ったところです」(ダーディー氏)
だが実際、イングランドにおける指導のすべてが理想通りにいっているわけではないようだ。英国人からはこんな鋭い意見も聞かれる。「イングランドでは技術面の指導に問題があるのではないか。プレミアで成功している監督の多くが外国人であるようにコーチのレベルもほかの欧州諸国より低く、情熱だけが先走っている。子どもたちも競争心は強いが、技術が育っていない。むしろ技術面では日本の方が優れているように見える」
BBCのウェブサイトにも、そんな声を後押しするような記事が掲載されていた。「イングランドで試合を見ていても退屈な選手が多い。それは、子どもたちに対し、技術ではなくフィジカルを重視する指導が行われているからではないか」と。そこで、ブラジルのサロンフットボールの良さを取り入れようと、Socatotsのようなプライベートスクールがはやり出してはいるが、長い歴史の積み重ねがあるだけに、状況が変わるには時間がかかるかもしれない。
育成年代は勝ち負けよりも、基本技術や想像力、フットボールを楽しむ気持ちを養うべき時期。しかしながら日本でもイングランドでも、勝利至上主義が依然としてまかり通っている。日本は技術偏重、イングランドはフィジカル偏重という差異はあるものの、どちらもジレンマは抱えているのだ。いかにして強烈な個性を作り上げるのか・・・。日々、模索は続いている。
元川悦子 2006年12月
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