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通訳者としての自分をゆっくり見つめ直したかった

 

通訳者としてのスキルを見つめ直すため、英国の大学に1年間の留学。帰国後の現在は、ビジネス、金融、医薬などのさまざまな分野における会議通訳者として活躍。

名前:
塩谷明代さん

留学先:
University of Bath

プログラム名:
MA in interpreting and translating Japanese Stream, European Studies & Modern Languages

日本の大学時代、ある体験から通訳の面白さを知り、大学卒業後、数年間の英語教員時代を経て本格的に通訳者への道に進んだ塩谷明代さん。現在は「サイマル・インターナショナル」専属の会議通訳者として、金融・ビジネス、医学・製薬・司法などさまざまな分野における国際会議の場で活躍している。

塩谷さんが通訳者としてキャリアを重ねていくにあたって、英国留学がどのような意味を持ったのかを見ていきたい。

通訳という仕事を選ぶ

我々は「通訳」という仕事を身近で目にしている。例えばテレビのスポーツ番組で、外国人選手の勝利インタビューにおいて選手の興奮を臨場感たっぷりに伝えてくれるのも通訳者だ。母国語が異なる人同士が直接コミュニケーションを取りたいとき、通訳という職業はなくてはならないものだろう。

「私が行っている会議通訳は、国際会議や企業の社内会議で行う通訳です。通訳には逐次通訳といって話者が30秒や1分間話したことをまとめて通訳するものや、同時通訳といってヘッドフォンを耳に付けて話者の話をほぼ同時に通訳していくものがあります」

では、塩谷さんはどんなきっかけで通訳の道へ進もうと思ったのだろうか?

「通訳に興味を抱いたのは、大学時代のことでした。先生のご紹介で文化人類学のアメリカ人教授のお手伝いをさせてもらったのがきっかけです。祇園祭に関して町屋の研究をされる教授のインタビューに同行し、通訳らしきことをしたのですが、これが面白かったんです」

大学卒業後は数年間、府立高校の英語教員を勤め、その後、外資系製薬会社に転職し、ここで社内通訳者として本格的な「通訳業」のスタートを切った。

「念願の通訳という仕事ですから、毎日がとても刺激的でした。ところが何年か経つうちに心配になってきたんです」

逐次通訳にしても同時通訳にしても、よい通訳者は会話の話題となっている分野の知識を持ち、さらに話者の考え方、広く言えばバックグラウンドさえも掴み的確に訳していく。塩谷さんは外資系製薬会社の社内通訳者として8年間という年月を重ねて行くにつれ、専門分野の知識を身に付けていった。そして、主に社内の定例会議の通訳、会社の社長と取り引き先や当局との間の通訳などの仕事をもくもくとこなしていったが……。

「仕事を続けながら不安に思ったこと。社内通訳ということもありほぼ同じ話者を通訳していましたし、製薬会社という限られた分野でした。段々、『日々問題なく通訳できているのが、自分に通訳者としてのスキルが身に付いたからなのか、通訳する内容、話者に精通してきたからできているのか』分からなくなってしまったんです。一度、リフレッシュすることが必要だと思うようになりました」

通訳をもう一度見つめ直す留学

海外の大学で通訳をブラシュアップしたい、そう思っても現実は簡単ではなかった。仕事のこと、結婚した夫との生活のことを考えると、長期間の留学は難しい。また、ただ海外留学できればよいということでもない。さまざまなことに思いを巡らせた結果、英国留学を決意する。

「英国を選んだのにはいくつか理由があります。ひとつは留学期間が短くてすむこと。オーストラリアやアメリカも留学先の候補として考えてみたのですが、大学院で修士課程を修了するためには最低2年間はかかります。英国なら1年間のコースがあり、ヨーロッパであることも決め手になりました」

塩谷さんは大学時代、ニュージーランドへの交換留学を経験している。ニュージーランドは国家として成熟する過程で文化、教育制度などにおいて英国の影響を強く受けており、その素晴らしさを経験していた塩谷さんは、英国に親しみを感じていた。

「英国は他のヨーロッパの国々のように陸続きではありませんが、さまざまな文化を体験することができます。そういったことを考えてみても、英国で学ぶことはとても魅力的に思えたんです」

実りの多い英国留学

約半年間の準備期間を経て、2004年の秋からいよいよ英国へ留学。大学はイングランド南西部の都市・バースにあるバース大学(University of Bath)。ロイヤルクレッセントや古代ローマ時代の浴場跡“ローマン・バス”などの世界遺産を持つ街は、蜂蜜色の街自体がユネスコの世界文化遺産都市に指定されている。

「私が学んだのは European Studies & Modern Languages = ESML 学部の中の日英通訳・翻訳修士課程コースです。ここには英語・日本語間を翻訳・通訳するためのスキルを身に付けるコースの他にも、英語・中国語間、英語・ヨーロッパの言語間のコースがあります」

バース大学の ESML の特長は、ヨーロッパ圏にあるプログラムということもあり、“EU という舞台”を意識した試みが実践されているところ。例えば、

「EU では加盟国の諸問題を話し合う会議がありますが、通訳・翻訳コースの授業ではこの疑似会議を行います。学科のすべての学生が会議参加者と通訳にわかれ、実際の会議で議題となる環境問題や麻薬問題などを論じる演習を行います。他にも、国際経済や国際開発論、EU の知識を深く身に付けるための授業など、現地で学ぶ醍醐味を十分に味わえます」

 留学を通じて技術的な部分でためになったことは?

「留学を通じて得たことはいろいろありますが、イギリス人の先生からの直接指導は実になりました。日本語を英語に訳す際、より適切な表現は何か、ネイティブならではの指摘を受けました。また、翻訳を勉強できたことは通訳を学ぶ上でもためになったと思います。通訳に関しては日本で学んだ経験がありましたが、翻訳を学ぶのは初めてでした。翻訳のクラスでは毎回、宿題として翻訳課題の提出を求められました。また、修士論文を書くためには通訳や翻訳の理論書を読み込まなくてはなりません。こうしたことなどを通して、これまでの通訳経験を別の側面からとらえることができました。つまり、これまで通訳者として自分が身に付けてきたスキルを、理論に照らして見直すことができました。これは意義深いことでした。」

通訳の仕事は単に日本語を英語に、英語を日本語に訳す技術だけがあれば事足りるわけではない。やはり、トピックの背景まで理解していることが必要不可欠だ。

「通訳という仕事はトピックの背景まで理解していることが求められますが、1年間英国で学んだことは、私にとって有意義でした。」

より高いレベルの通訳者となるために

塩谷さんが考える、よい通訳者となるための条件とはなんだろうか?

「技術的な部分でいえば、例えば日本語力。英語での的確な表現力もさることながら、日本語においても状況に応じて的確な言葉を選んでいかなければなりませんから。そういった表現のスキルアップが必要で、このことは絶えず向上しようと努力していく必要があります」

表現のスキルはもちろん、やはり知識・経験を積む重要性を塩谷さんは説く。

「例えばつい先頃、国連の司法研修として主に発展途上国の代表が参加する会議で通訳をしたのですが、そこで知ったのは、同じアフリカの国であっても、例えばイギリスの旧植民地、フランスの旧植民地という歴史的背景によって司法制度が違うということです。会議にはそういったさまざまな国の代表が集まって司法制度について論じ合ったのですが、各国のバックグラウンドを知らなければ的確な通訳はできないと思いました」

通常、通訳者はひとつの仕事をこなすために、膨大な量の資料に目を通す必要がある。

「事前に知識を蓄えることが必要です。特に分野が、医薬、法律、金融など広範囲に渡りますので、絶えず知識を蓄積していくことと、そして経験を積むことがとても重要になってきます。経験を積み重ね、より高いレベルの通訳者になりたいと思っています」

留学生活の1年を振り返って、いま塩谷さんが思うことは?

「バース大学では、すでに通訳者としての経験のある方、これから通訳者を目指そうという方などさまざまな方が学んでいます。ただ、1年間留学したからといって通訳者としてのすべての技術、経験が積めるわけではありません。むしろ大切なのは留学した後です。日本に戻り、実践的な訓練をたくさん積むこと。通訳者としてのスキルを身に付け、多くの経験を積むことが大切です。そうして初めて、通訳者としての本当の実力を身に付けることができますから。それから、留学したからといって先生が手取り足取り教えてくれるわけではありません。基本的に“自分から学ぶ”という姿勢で臨まなければ、良い成果は得られないと思います」

最後に、塩谷さんにとって通訳の仕事の魅力は何か聞いてみた。

「たくさんの方と出会えること。これは通訳の仕事だけではないかも知れませんが、さまざまな業種の方、その先駆者的な方々にお会いしていろいろな考えを聞けることは、それだけでとても楽しいことです」

プロフィール

大学在学中に1年間、ニュージーランドに交換留学。大学を卒業。以降、府立高校の英語教員として数年間務めた後、大阪にある外資系製薬会社の社内通訳者となる。
2004年
秋から1年間、University of Bath にて European Studies & Modern Languages 学部で通訳・翻訳修士コースを履修。その後大学院修士号を取得。
2006年
株式会社サイマル・インターナショナルの専属会議通訳者となる。
 
 

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