真に途上国に必要な支援とは何か?
「開発」の本質を学びたかった。
開発学に興味を持ち、英国の大学に1年間の留学。現在は、地球規模での環境問題に取り組む国際環境 NGO 「FoE Japan(Friends of the Earth Japan)」において、「開発と環境担当」に従事している。
名前:
清水規子さん
留学先:
University of Bristol
プログラム名:
MSc Development
開発学とは、国際的な経済格差を少なくするために、発展途上国の貧困を解消する方法や、国家間の開発援助政策を研究する学問のこと。清水さんは日本の大学時代にこの学問と出会い、英国に留学する。開発学の魅力と英国留学、それがどのように現在の仕事に結びついていったかを見ていきたい。
国際的な仕事をしてみたい
大学時代、ゼミでマクロ経済学を研究していた清水さん。その中で開発経済学に触れ、開発学に関心を持った。
「例えば、 IMF (国際通貨基金)が国に対して融資を行う際には、その融資が効果的に利用されるために一定の条件を課すのですが、その条件を課すことによって、途上国政府に負のインパクトが出ている問題。いまでは随分と改善されていると思うのですが、私が開発学に出会った当時は随分とこの問題が批判されていて、そういった事実を知ったことで、そもそも開発はどうあるべきかという問題意識が私の中で芽生えたんです。それが開発学に興味を持ったきっかけです。学部の卒業論文は“開発の在り方”をテーマに書き上げました。そこで IMF や世界銀行などの開発金融が行っていることを調べていくうちに、さらに勉強してみたいと思うようになったんです」
それで留学のために英国へ?
「ひとつは開発学を学びたいという希望。ただそれだけでなく、当時は民間企業に就職することにそれほど興味を持てなかったんです。企業利益のために仕事をするよりは、公益のための仕事をしたかった。それから国際的な環境で仕事をしてみたいとも思っていたんです。そうしたいくつかの希望を叶える方法を考え、最終的に英国留学に行き着いたんです」
開発学の“本家本元”で学ぶ
「英国を選んだ一番の理由は、開発学において英国が本家本元であったこと。やはり開発学が英国で育っていったのには理由があって、そこには植民地支配を広げていた英国の歴史、経験が大きく影響しているんです。それから1年間で開発学を学べることも英国を選んだ理由のひとつです」
開発学を学ぶために留学。もちろん、日本でも開発学を学ぶことはできるだろう。それでも留学にこだわったのには理由があった。
「確かに日本でも学ぶことができます。ただ開発の世界で本当に仕事をしようと思ったら英語は必須です。ですから私の場合、学問を学ぶことと同時に英語も習得したかった。そこで留学という方法がベストな選択だったんです。付け加えると、国際的な環境で仕事をしたいと思ったら、どこでも通用する英語を身につける必要があると思います。それで英国というわけです」
下見で大学を訪ね、コースを確認
日本の大学を卒業した翌月に、清水さんは早々と海を渡る。大学院留学に先立って英語を習得するためだ。
「日本にいる間も英語は勉強してはいましたが、渡航してからは,民間の語学学校で3カ月、引き続き大学附属の留学生用の準備コースに通いました」
留学先に選んだ大学院は University of Bristol。実は日本にいる間にすでに入学はパスしていたと言う。
「留学しようと決めてから、ブリティッシュカウンシルに通って大学の資料を見たり、書籍で開発学をコースとして持つ大学をリストアップしたりと準備を進めました。実際、開発学と言っても範囲は広くて、政治学的なアプローチをしていくのか、ジェンダーの視点から学ぶのか、経済の視点から学ぶのか、大学によってもさまざまです。私は IMF や世界銀行の行為について深く学べるコースを取りたかったので、各大学のホームページを参考に絞り込んでいきました。その段階で University of Bristol は自分の希望にぴったりだったんですけど、ホームページだけ見て即決するのもどうかと思って、リストアップしたいくつかの大学を訪れてみることにしたんです」
念には念を入れて。清水さんは直接大学を訪れて、本当に自分が希望している内容を学ぶことができるのかを確認した。
「いくつかの大学を視察したんですけど、例えば街の雰囲気が馴染めなかったり、コース内容が自分の希望に叶っていなかったり。ロンドンのある大学もリストに入れていたんですけど、そこで提供しているコースは開発学ではなく開発経済学だったんです。確かに開発経済学を学ぶことも、それはそれで良いんでしょうけど、最初から経済というくくりで学ぶのはどうかと考えてやめました。一度“開発”を広く学び、その上でどうしても学ぶ必要があると思えば経済的な視点を掘り下げてみる。それでも遅くはないと思ったんです。そうやって吟味していくと、自分に一番適したコースを持っているのは University of Bristol だと分かりました」
大学のコース内容以外にも、ブリストルの街の雰囲気に魅力を感じたことも決め手となった。
「ロンドンほど建物が密集していなくて過ごしやすく、日本人が比較的少ない環境は英語のスキルを上げる意味でも魅力的でした。あと、大学の建物が可愛いこと。街に大学の建物が点在しているんですけど、すんなりと歴史のある街並みに溶け込んでいて、それがすごく良いなって」
英語を使って大学院で学ぶということ
日本人が母国語である日本語を使って、生まれ育ってきた日本で学ぶのと、留学して現地の言葉をマスターし、日本とは生活環境の違う海外で学ぶのとでは、想像しただけでも大きな差がある。
「英国に行ってから知ったのですが、私たちが日本で学んでいる英語は、いわゆる英国式の発音ではなく米国式の発音です。その部分のギャップも感じましたし、現地生活で必要なのは、ただ相手に通じればいいという日常会話力ではなく、大学でディスカッションしたり、文献を読みこなしたりするために必要な高度な英語力です」
実際に大学院で学び始めた最初の3カ月は、英語力という点で苦労したことも結構あったという。
「現地の英語学校で半年間頑張ったにもかかわらず、ディスカッションにも入れないほど他の学生と英語力の差があり、けっこう悔しい思いをしました。考えてみれば、英語学校の先生は私たちと会話をするときに手加減してくれていたんですね。英語学校では、英語をマスターしきれていない生徒同士で会話するか、先生と会話するだけ。ネイティブの学生と混じって生活するのとは違います」
英語力にくわえ、開発学という清水さんにとってはまったく新たな学問を学ぶ大変さもあった。
「それまで開発学をきちんと学んだことのなかった私にとって、新しい学問を第2外国語の英語で学ぶというのは、大きな挑戦でした。開発学の専門的な知識の他にも植民地の歴史的背景を学ばなければいけないのですから。特に教えている先生の関心が、アジアのよりもアフリカにあったことで、新たに知識として加えていかなければならないことは膨大な量となりました。アフリカが題材となっているのはまさしく英国が背負ってきた歴史、つまり英国の旧植民地がアフリカの国々やインドであったためですが、そのためにそれぞれの国に関して植民地時代の歴史から学ばなくてはなりませんでした。ただ、そういったことをきちんと積み重ねていくと、最終的に開発学の本筋が見えてくる。学んでいる最中はよく分からなかったんですけど、全てが繋がっていくんです」
国際人としての英国人の意識
“受け入れられるようになったこと”---英国に留学して一番変わった部分は? という問いに対し、清水さん答えた言葉だ。
「英国って本当にたくさんの民族が入り交じっているでしょ? 例えば街を歩いていても、それまで知らなかったような国の名物料理を出すお店があったり。そんな環境で生活していると、自然と色んなものを受け入れられるようになった気がします。それまでの自分は、 “偏見”というフィルタがどこかで本来の自分を邪魔していた気がします。まっさらな目で、か分かりませんが、フィルタが薄くなって物事を見ることができるようになったのは、まさに英国留学のおかげです」
1年間の英国留学で英語をマスターし開発学の知識を十分に得たこと、もちろんそれは現在の仕事に通じる大きな収穫だが、同時に多くの移民が集まる国で、真の国際人としての素養を身に付けられたことも大きな収穫だったのではないだろうか。
プロフィール
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2000年 4月に渡英。約半年の英語習得期間を経て、10月に University of Bristol に入学。開発学を学ぶ。 |
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2002年 帰国。一橋大学社会学研究科で助手を務める。 |
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2004年 国際環境 NGO 「FoE Japan(Friends of the Earth Japan)」で勤務。「開発金融と環境プログラム」に従事。 |