国連・NGO の活動と並行して LSE で修士号を取得。2005年夏からアフガニスタン事務所長に就任予定
名前:
深尾剛司さん・日本ユネスコ協会
留学先:
London School of Economics and Political Science, University of London (LSE)
プログラム名:
MSc in Analysis, Design, Management of Information Systems
偶然目にした、途上国で虐げられた人々の惨状
深尾さんが国際開発の道に進んだのは、日本の大学に在学中、一人旅で訪れたインドでのボランティア体験がきっかけだった。
「旅行中のペナレスという町で一人の日本人ボランティアに出会ったのですが、彼の話に触発されて自分もボランティアを始めたのがそもそものきっかけです。活動先はカルカッタのマザーテレサの家。あの『死を待つ人の家』でした」
『死を待つ人の家』とは、人間の尊厳を傷つけられ、ひたすら死を待つ人が最後の時を過ごす施設。深尾さんは安宿街の1泊90円の宿に寝泊まりし、死を目前にした老人たちの介護に汗を流した。
「彼らの多くはカースト制の最下層に位置付けられている『不可触民(untouchables)』、つまり見たり触ったりしただけで汚れるといった差別に傷つけられた人たちです。自由や選択といった日本人なら誰もが持ち合わせている最低限の権利とは無縁に生きてきた彼らが目の前で死んでいく。でも、これらの不平等はインドだけに限ったことではありません。東南アジアやの国々を訪れてみれば、自由や選択を奪われた人が、想像以上に多くいます」
唯一の救い - Love more than be loved -
人が死んでいく。目の前で。しかし日本という国で生まれ育った者には想像できないほど、それらの死は不条理だ。
「『死を待つ人の家』で強く感銘を受けたのは、一緒に働いていた欧米人のボランティアたちです。死を待つ老人にニコニコと気さくに話しかける彼ら。働き始めた当初は、老人たちに笑顔で接するなんて心境にはとてもなれませんでした。しかし彼らは違った。どうしてこれから死んでいく人に笑顔で接することができるのか -。そんなときです。マザーテレサの仰った言葉が、心に深く染み込んできたのです。“Love more than be loved (愛されるより愛せよ)”- ボランティアの活動の根元は、まさにこの言葉に集約されています。自分の価値観が壊れるほどの惨状を目の当たりにし、彼らのためにできることはないか、そう考えたとき、途上国支援を自分の生きる道にしたいと強く思ったのです」
途上国開発の道へ進むため、大学院留学を決意
国際開発、例えば NGO で働くためには、勤務経験やより高い専門性を身に付ける必要があった。深尾さんは、大学卒業後に生命保険会社で働きつつ、将来の大学院留学を見据えて準備を着々と進めていった。
「4年間の生命保険会社での仕事で、職歴とともにある程度の資金が貯まりました。最終的には大学院で修士号を取得したかったので、まずマンチェスター大学経済学部の大学院へ留学し、ディプロマを取得。その後の2年半は国連・NGO での活動を行いながら、大学院留学を目指しました」
国連・NGO の活動を通じ、ICT による社会開発の可能性を見いだす
「実は NGO の活動を始めたのは、マンチェスター大学に入学する半年前です。会社を辞め、英国に渡るまでの半年間でできることを探していた矢先、知人が NGO を設立するという話を聞き、その手伝いを始めたのです。設立した難民支援協会では、日本にいる難民の包括的保護という活動を行い、これは他の NGO が活動していない分野でもあったため、需要が高かったと思います。ただし、設立1年目ということもあり、給料は交通費込みで5万円でしたけど。もっとも、社会的意義を感じながらの仕事は、とても充実していました。マンチェスター大学でディプロマを取得した後は、ナミビアの地方部でコンピューター教師として働いたり、国連開発計画のモンゴル事務所とボスニアヘルツェゴビナ事務所にて ICT (情報通信技術)プロジェクトを立ち上げたりと精力的に活動しました。特にこの時期、ICT が将来、社会開発において非常に大きな役割を担うことになるという実感を得て、大学院留学で専攻する専門分野も次第に絞れていったと思います。途上国の子供にコンピューターを教えていて気づいたのですが、彼らもやはり先進国の子供と同じように、コンピューターが好きなんです。それに、自分のような素人がセットアップしただけで、インターネットがつながり、途上国にいても世界中の情報を瞬時に集められるなんて、すばらしいことだと思いましたね」
ICT for Development の最先端、LSE で学ぶ
そしていよいよ、LSE(London School of Economics)に入学。「留学先を決めるまでには、知り合いの多くの留学経験者に相談しアドバイスをもらいましたが、まず英国を選んだのは、開発学の歴史が深いと聞いていたからです。また、専攻分野である ICT for Development において著名な Dr. Shirin Madon の存在、さらに開発学のプログラムが充実していると評判だったことから LSE を選びました。国際開発の分野をより深く学ぶことと同時に、欧米の一流大学院で学び国際社会で生きていく実力を身につけることも大学院選びのポイントだったため、その意味で LSE は自分の理想にかなった場所だったと思います」
『教育』をキーワードに、さらなる活動の場を広げる
ICT for Development で修士号を取得後、深尾さんが活動の場として選んだのは、日本ユネスコ協会だった。
「自分のキャリアで、ICT and Development という分野にフォーカスをしすぎるのは避けたいと思っていました。分野がマイナーすぎ、将来の社会ニーズも明確でないのが理由です。それでも当分野で自分が職務経験を持っていたのは、Community Development, ICT Education, E-Government で、そのうち Community Development と ICT Education の分野には特に興味を持っていました。それらのプロジェクトが実施できそうな日本ユネスコ協会からオファーを受けたとき、とても魅力的な話だと思いましたね。他にも、国連機関からのオファーもありましたが、仕事の将来性と当時の自分を高く評価してもらえたこと、それから日本をベースに国際協力の人脈を構築したいという考えもあり、最終的には当協会を選びました」
協会での仕事は、まず「ノンフォール教育プロジェクト」に携わった。これは、識字教育、職業訓練などを行うコミュニティ・ラーニング・センターのハード・ソフトを提供するもの。
「具体的には、学校建設から、教師のトレーニング、テキスト作成まで行います。また、現地政府の識字教育省の役人のトレーニングも含まれます。ゆくゆくは、自分の専門であるICT(情報通信技術)もそのコンテンツに入れて行きたいと思っています」
現在深尾さんは、事務所長としてアフガニスタンに赴任予定で、その準備に追われた日々を送っている。インドでの惨状を目撃して10年 - 国連・NGO での地道な活動と、英国大学院留学を経て、深尾さんの国際協力活動は『教育』をキーワードに、一歩一歩前進している。
「ボスニアーアフガンが直近2カ所の仕事地です。戦災国での教育プロジェクトに携わっていきたいと思っていますが、最終的には、地球上の全ての人に教育がいきわたる仕組みをマクロ的に構築していく仕事ができればと思っています。私にとって英国留学は人生の幅を広げてくれたものです。今後は博士取得を視野に入れ、さらに活動の幅を広げていければと思います」
プロフィール
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1994 旅行先のインドで途上国の惨状を知り、将来、国際開発の道へ進むことを決意。 |
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1996~ 生命保険会社勤務。営業管理と企業融資を担当。 |
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2000/4~ 退職後、立ち上げたばかりの NGO 難民支援協会(www.refugee.or.jp)にて事務局スタッフとして働く。 |
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2000/9~ マンチェスター大学経済学部大学院へ留学し、ディプロマ取得。 |
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2001/6~ NGO / World Teach (www.worldteach.org)の派遣によりナミビアの地方部でコンピュータ教師となる。そこで、ICT (情報通信技術)と社会開発の可能性を見出す。 |
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2001/9~ 国連開発計画モンゴル事務所にて ICT プロジェクト(学校、政府、企業に向けた社会開発プロジェクト)のコーディネーターとなる。 |
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2002/10~ 国連開発計画ボスニアヘルツェゴビナ事務所にてコンサルタントとなり、ICT を学校や政府運営に活用するプロジェクトに立ち会う。 |
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2003/5~ モンゴルにて ICT を産業、教育により根付かせるため元同僚たちと NGO 設立(JMITA - Japan Mongolia IT Association)。プロジェクトマネージャーとして設立業務に従事。 |
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2003/10~ LSE にて ICT for Development を専攻し、1年後に修士号を取得。 |
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2004/11~ 日本ユネスコ協会にて勤務開始。2005年7月よりアフガニスタン事務所長としてアフガニスタンに赴任予定。 |